『月のフェイズ』(ファースト・クォーターただ、アタシの瞳には半球だけ照らされた上弦の月が映った。 『月のフェイズ』 次の日学校へ行くと、隣りのクラスの藤原君がアタシの席に座って居た。 「おはよう!魅月ちゃん☆昨日はどうしたのぉ?店長さん怒ってたみたいだったよぉ?」 藤原君はそう言った。彼は藤原健吾。明るくて、学年の人気だ。 それにルックスも良くて勉強も出来て、スポーツ万能。女子からの黄色い声も少なくは無かった。 そんな藤原君が…いつからだろう。アタシに良く構うようになった。 バイト先にも良く来るし、クラスにもしょっちゅう来る。初めは何がしたいのか良く分からなかった。 一ヶ月くらい前だったか、藤原君がイキナリ言った。 「俺、魅月ちゃんの事、好きなんだよねぇ!付き合って!」 アタシは別に藤原君の事好きじゃなかったから、モチロン断った。断ったはずなのに…。 追っかけはますますひどくなっていた。 学年の藤原ファンには変な目で見られるし。 アタシが告られた事は皆知らないみたいだけど。まぁ知ってたって知らなくたって関係ないか。とにかく結構ウザかった。 バイト先の店長とも何気に仲良くなっちゃってるし。どうにかして逃げたかった。 「ねぇってばぁ~、何で昨日バイトサボったの~?」 藤原君がまた訪ねる。 「あぁ、昨日はチョット忘れてたの。バイトの事。もうイイでしょ、いい加減自分の教室帰ってよ」 アタシがそう言うと藤原君は怒られた犬のようにしゅんとして教室に帰っていった。 まわりの女の子の声が「健吾君可哀想~」などと言っている。 こんなに藤原君の事を気にかけている娘が沢山いるのに…何故アタシなんだろう。そろそろ諦めてもイイのに…。 恋などした事が無いアタシにはとても理解のしがたいものだった。 そう…恋などした事が無かった…。 でも…昨日のあの彼…刹那に感じた想いは恋と呼べるんじゃないかと思った。 学校が終わって、アタシはすぐにバイト先のコンビニに行き辞める事を店長に伝えてきた。 コンビニから出ると、昨日のあの猫。ムーンが入り口のところに座って居た。 まるでアタシが出てくるのを待って居たように。 ムーンはアタシを見ると、昨日のように歩き出した。少し小走りでついて行くと、やはり昨日のあの道に出た。 静かで、薄ぼんやりと街灯がアタシ達を照らして、刹那は優しく微笑んでいて…。 「おっす!魅月、ムーン!」 刹那はニカッと笑い、敬礼するように手を動かした。 そんな刹那の何気無い仕草にも心臓が高鳴る自分が居た。 アタシは刹那の隣に腰掛けて刹那の弾くギターの音色に聴き入った。 刹那のギターと唄はまるでアタシの心の中の汚い部分を浄化してくれるみたいだった。 優しくて、暖かくて、刹那の瞳と同じだった。 目を閉じて、耳に全神経を使うと、心地良い刹那の唄、音が一気に流れ込んできて心がぽかぽか温まる。 こんな感情生まれて初めてだった。 刹那は、腐ったアタシを救ってくれた。 好き、好き、刹那が大好き。 物思いにふけっていると、額をピンッとはじかれた。 「おいッ魅月!!唄はもう終わったぞ?寝てるのか?」 刹那にでこピンされて、ふと我に返る。 「イタイなぁ~、寝てなんかないよ」 アタシはそう言っておでこをさすった。 「ごめんごめん、いたかった?魅月」 刹那はそう言ってアタシの額に触れた。 暖かい刹那の指が額をなぞる。体温がどんどん上がっていくのが解った。 このまま時間が止まってしまえば良いのに。そう想った時刹那が割って入るように言った。 「魅月はさぁ、彼氏、いるの?」 刹那はイキナリそんな事を聞いてきた。 「居ないよ、刹那はどうなの?カッコイイし彼女の1人や2人居そうだよねぇ」 アタシは内心すごくドキドキしながら聞いた。 「俺?俺は…居ないかなぁ?」 …かな?かなって…微妙に疑問系…。 「アハハッ!何それ、居ないかなって…変なの!」 出来るだけ平気そうに聞いてみた。 「俺、恋人居たんだよ。一年くらい前まで。好きで好きでたまらなかった。愛してた。だけど…」 刹那はそこで黙ってしまった。 「…辛いなら、話さなくてイイよ…」 アタシはそう言い、ムーンの方へ行った。 「いいや、話す。魅月には…なんだか知ってて欲しいんだ…」 出来るなら聴きたくなかった。子供みたいだけど、刹那が他の人と…そんな事受け入れたくなかった。 「一年前…死んだんだよ。病気で。初めから解ってたんだ。アイツの命がそう永くは無いって。それを承知で好きになって、付き合った」 刹那は、ゆっくりと、しかし確実に辛い昔を思い出し、アタシに話してくれている。 「うん…そっか」 そう解っていても、頑張ってくれているって解っていても刹那の方は向けなかった。 「死んだって解っていても、今まで忘れられなかったんだ。だから、初めてアイツに出会ったこの場所で唄を歌ってたんだ」 ・・・・・・・・今マデ忘レラレナカッタンダ。。。頭の中が真っ白になった。 ただ、アタシの瞳には半球だけ照らされた上弦の月が映った。 |